ソン・ジヒョン - 夏にあたしたちが食べるもの

ソン・ジヒョン 著　金子博昭訳 - 夏にあたしたちが食べるもの

ソウルにてバンドのヴォーカルとして活動しているものの、三十歳を過ぎ、もう夢は諦めている主人公。新居が見つかるまでの間、ウィークリーマンションのような場所で暮らしていた彼女は、故郷に住む育ての親であり、編み物店を営む叔母がヨーロッパ旅行に行く1ヶ月前に、自分が旅行中に店番をしないかと誘われ、故郷に戻る。
この後の人生に悩みながらも叔母と暮らし、自分と同じく故郷に戻ってきてハットグ屋を営む少し歳上の青年とも交流が生まれ・・・　

というお話。
とても短い短編で、大きな事件も人間模様の変化もない。
けど、この先どうしようかな〜　と思いながら友達とビールを呑みに行っては、少し涼しくなった夏の夜をブラブラ歩いて帰る、みたいな経験がある方だったら、この物語の裏にある機微を感じ取って頂けるはず。
そして、韓国の激しい競争社会という背景を考えると、ここに描かれているメタファーの優しさが心にグッと来る一編です。

CUONのリリースしている、”韓国文学ショートショート”シリーズからの一冊。
このシリーズ、12inchを買うような感覚で短編を楽しめるので、とてもオススメです。
日本語訳だけでなく、韓国語の原文も収録されています。


CUON
2024.11