ジャック・ケッチャム - 老人と犬

モダン・ホラーの作家として知られるジャック・ケッチャムが95年に記した『老人と犬』（原題：RED）。
日本では扶桑社ミステリーより99年に翻訳版が出版されていましたが、長らく絶版になっており、20年に再刊。しかし、それも品切れになっていたのが24年の大晦日に第二版が重版出来となり、stacksにも新刊として入荷しました。

静かなる怒りが胸を打つ、ジャック・ケッチャムの異色作。
大切なものを理不尽に奪われたら、あなたならどうするか。

ホラー小説の名手として知られるジャック・ケッチャムが今作で描いたのは血みどろの恐怖ではなく、人間の尊厳と怒りを描いた静かな復讐劇。

主人公は、エイブリー・アラン・ラドロウという名の老人。彼が共に暮らす唯一の家族であり、長年寄り添ってきた老犬レッドが、ある日、若者たちの手によって何の理由もなく撃ち殺されてしまう。ラドロウはただ謝罪を求めるが、加害者も加害者の親にも反省の色もなく、周囲の大人たちも事態を真剣に取り合おうとしない。しかも、当時は動物への虐待を厳しく罰する法律も存在しない時代…
理不尽な暴力と無関心の中で、ラドロウは正義を求めて静かに立ち上がる。

この設定は映画『ジョン・ウィック』の冒頭を思い出させますが、ここにあるのは銃撃戦や派手なアクションではなく、もっと現実的で、もっと切実な「怒り」の物語。

日本語版文庫の解説を手がけた中原昌也は、この作品を「動物愛護暴力小説」と評しているが、非常に言い得て妙。ケッチャムはここで、人間が抱えるどうしようもない感情と、その行き場のなさを真正面から描いている。
静かに、だが確実に胸に刺さる一冊です。


279 Pages
2020
扶桑社ミステリー